インターネットがこれだけ発達し、リアルとデジタルがシームレスになりつつある昨今の小売業界において、日本市場の先をいくアメリカマーケット。中でもニューヨークは、常に話題の店舗で溢れています。

今回は、全4回に渡ってニューヨークの“小売店舗最新事情2019″をレポート。第1回目は、買い物がより楽しい体験化・エンタメ化していくという体験型店舗「リテールテイメント」の流れをご紹介します。


今話題の「リテールテイメント」とは!?

リテールテイメントとは、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)を融合させた商業形態のこと。リアル店舗においてブランドならではの“リアルな体験”を提供し、顧客満足を向上させると今注目を集めています。

サンディエゴ州立大学でブランドマネージメントを教えるLisa Haddock(リサ・ハドック)教授はロサンゼルスタイムズ誌で、「楽しくて、ユニークなパーソナライズされた顧客体験は、感情のレベルまで訴え、ブランドとの関係性を強める」と言っています。

引用元:Los Angels Times誌

“There’s a new term for this, which we call ‘retail-tainment,'” said Lisa Haddock, who teaches marketing, brand management and consumer behavior at San Diego State University”

https://www.latimes.com/business/la-fi-nordstrom-local-20171006-story.html

また、アメリカの TechHQ という”テクノロジーとビジネス”情報メディアで、「リテールテイメントの夜明け」という記事が書かれるなど、この考え方はアメリカを中心に話題となっています。記事では「73%の英国人が、”体験”を重視した店舗によりお金と時間を使う」という調査結果が発表されており、エンターテイメントな要素を小売店舗に取り入れる手法が大変注目されています。

引用元:TechHQ

“The rise of retailtainment” “73 percent of UK consumers would spend more time and money in stores that offered up experiences as well as just product, according to research carried out by Retail EXPO”

https://techhq.com/2019/06/the-rise-of-retailtainment-in-store/

では、実際にリテールテイメントを体現するニューヨークのリアル店舗を見ていきましょう。

予約殺到のマットレス体験ストア Casper(キャスパー)

スリープテックと言われるほど、睡眠を改革するスタートアップがどんどん生まれているアメリカ。その中で、マットレスのオンライン直販で有名になったCasper。革新的なプロダクトや、ユーザーに寄り添ったサービスが支持を集める理由ではありますが、彼らの体験型店舗は注目です。

SOHO地区にあるCasperの店舗
店内には、家型のブースが並んでおり、寝転んでマットレスを試すことができます。こちらの通常店舗を見ただけでも、体験を重視しているのがわかります。

マットレスや枕などを取り扱う通常店舗の裏手に、実際にキャスパーの商品で仮眠をすることができる“The Dreamery by Casper”という店舗があります。ここは予約制で、25ドルで2時間の睡眠体験ができるというもの。時間内で、Casper商品の寝心地を試すことができます。

The Dreamery by Casper内。飲み物やスナックなども用意されていて、至れり尽くせり。ぜひ体験してみてください!

寝具って数分使っただけだと使い心地がわからないもの。実際に寝る体験を通じて、マットレスが自分に合うかどうかを確かめることができるのです。

The Dreamery by Casper
196 Mercer St, New York, NY 10012

店舗の中でサッカーができる?アディダスの最新体験型店舗

ニューヨークの五番街にある、アディダスのフラッグシップ。店内がまるでスタジアムみたいな空間で、さらにテニスコートがあったりと以前から話題となっていました。

人通りの多い五番街で一際目立つ外観。商品は外からは見えず、ここは店舗?と疑心暗鬼で店内に…
1階は売り場ではなくて、まるでショールームのような空間が広がっています。
定期的に入れ替えをしていて、新鮮さがあります。
階段を上っていっても、まだ商品は見えません…
なんとここはスタジアム風の内観で、テレビでスポーツ観戦ができるスペース。

今回訪問したときには、新たな体験スペースとして、店内でスパイクの蹴り心地を試せるサッカーコートがありました。店舗と呼ぶにはあまりにも今までとは一線を画す、1棟まるごと体験型のショップです。

最上階にはサッカースペース。ここでひと汗かきました。
ランニングマシーンもあって、シューズの走り心地を試すことができます。

【adidas Flagship New York】
565 5th Ave, New York, NY 10017

EC企業が体験のためだけのリアル店舗をつくった b8ta(ベータ)

シリコンバレーで話題の店舗となっている、テクノロジーショップ「b8ta(ベータ)」。最新のIoT機器やデジタルガジェットを取り揃え、商品を実際に見て、触って、試すことをメインとした、いわゆる“ショールーミング”店舗です。

白を基調としたシンプルかつスタイリッシュな外観。ガラス張りで中の様子がよく見えます

今回訪問したのは、NYに新しくできたHudson Yard(ハドソンヤード)という最新のモール内にある店舗。どれも今までにない斬新なアイデアから生まれた、興味を引く商品ばかりで、そのセレクト力とスタイリッシュさが人気の理由です。体験に特化しているため、購入はネットのみとなっています。

店内は商品を試しやすいように、各アイテムが並べられており、それぞれパッドで商品説明を見ることができます。

新たな商品と出会うワクワクと同時に、実際に革新的な商品の機能を試すことで感じる感動体験を演出しています。

紙に書いたメモが、そのままデジタル保存されるという優れもののスマートペンシル。
一輪の電動スケボー。これはさすがに試せなかったですが、ちょっと乗るくらいならできそうでした。
脈拍など測るスマートウォッチは市場にすでにありますが、これはリング型のプロダクト。さすが、話題の商品をこれでもかと取り揃えています。

【b8ta – Hudson Yards 】
20 Hudson Yards New York, NY 10001

ただのおもちゃ屋じゃない!扉の向こうに広がるエンタメ空間 CAMP(キャンプ)

CAMP はニュースメディアの BuzzFeed が手掛けるおもちゃ屋さんです。

なんてことない普通のおもちゃ屋の外観。

最初お店に入ると、なんてことないトイショップなのですが、奥に隠し扉があって、その先にはまるでテーマパークのような空間が広がっています。期間によって様々なコンセプトを展開し、今回はクッキングがテーマでした。

奥の棚になにやら案内され・・・まさか隠し扉があるとは!
奥にはまったく別の空間が広がっています
多くの家族連れで賑わい、動く馬のおもちゃで遊ぶ子や、滑り台で楽しむ親子など、自由に遊んでいます。

子供も大人も一緒に楽しめる様々な仕掛けを一通り楽しむと、自然と商品を手にとって購入してしまう、まさにエンタメ要素盛りだくさんの店舗です。

定期的にクラスも開催されるようで、親子で参加できるワークショップなどが人気なのだそう。

【CAMP】
110 5th Ave New York, NY, 10011


リテールテイメントが、買い物を”ワクワクする体験”へと変えていく

これからの小売店舗において大切なことは、単なる購入の場としての“売り場”から、顧客の記憶に残るワクワクする買い物体験をいかに生み出せるかです。

ニューヨークの店舗を訪れる中で感じたのは、リテールとエンターテイメントをかけ合わせた、リテールテイメントというアメリカ小売業界の大きな流れでした。そして、顧客を喜ばせるために様々な工夫を凝らし、果敢にチャレンジする店舗が次々と生まれているのが、ニューヨークという街です。

インターネット時代におけるリアル店舗の役割は、ブランドの世界観に触れてもらうことであり、忘れられない体験を通じて長くブランドを愛してもらうことです。そして、小売の未来を考える上でのキーワードは、従来の買い物をエンタメ化し、楽しい体験型小売へと変えていく、「リテールテイメント」だと考えます。

ぜひ、体験型店舗が軒を連ねるNYを訪れ、ワクワクを実際に体験してみてください。店舗=売り場という固定観念はもう古いのだと、感じざるを得ないはずです。